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リスペクトが生んだ最高のプレー ~いつも心にリスペクト Vol.106~
2022年03月28日
短いオフを経て再開された欧州のサッカー。日本のファンの最大の注目は、MF井手口陽介、FW前田大然、MF旗手怜央の3選手を一挙にJリーグからの移籍で獲得したスコットランドの強豪セルティックの動向だったでしょう。
昨年夏に加入していきなり得点を量産、クラブきってのスターとなったFW古橋亨梧と合わせ、日本人選手が一挙に4人にもなるのは、欧州の1部リーグでは、日本の企業が所有するベルギーのシントトロイデン以外では初めてのこと。ましてイングランドに次ぐ長いサッカーの歴史をもつスコットランドでレンジャーズと人気を二分する名門クラブが、このように思い切った「日本化」に踏み切るのは驚くべきことでした。
そして結果は期待以上でした。古橋は故障のため欠場でしたが、再開初戦のハイバーニアン戦で前田と旗手が先発し、井手口も交代出場して2-0の勝利に貢献しました。前田が開始早々に先制ゴールを決め、旗手が「マンオブザマッチ」(試合のMVP)に選ばれるという活躍は、昨年半ばまでJリーグで横浜F・マリノスを率いていたアンジェ・ポステコグルー監督の日本人選手への信頼を裏切らないものでした。
この試合の中で、私が注目したのは、試合の序盤に見せた旗手のプレーでした。
中盤左でセルティックの左サイドバック、グレッグ・テイラーがボールを持ったとき、その前のスペースにいた旗手は、相手選手の「陰」から外側に出てテイラーからボールを受けるポジションを取り始めます。しかしテイラーは内側からサポートしたMFカルム・マグレガーに短くパス。すると旗手は急ターンしてマグレガーからのパスを受けようと下がります。動きの鋭さも、フリーになるタイミングも、教科書にしていいほどの完璧な動きでした。
しかしマグレガーが選んだのは、旗手より前方、最前線から下がってきた前田へのグラウンダーのパスでした。そのパスが放たれた瞬間、旗手は再び角度を変えてピッチを横切るように動き、前田からパスを受けられるポジションに移動します。そして前田がワンタッチでボールを落とすのを確認すると、旗手は顔を上げて右サイドを見て、ワンタッチで右MFのリール・アバダに40メートルもの速いパスを通したのです。残念ながらゴールにはつながりませんでしたが、本当に美しいボールの流れとスピード感のある攻撃プレー。その主役は、もちろん旗手でした。
このプレーを見て私が感じたのは、「リスペクトが偉大なプレーを生む」ということでした。
最初はテイラーから、続いてマグレガーから、旗手はパスを受けるために動きました。旗手へのパスコースは確かにありました。しかし両選手は別のプレーを選択しました。こうしたときよく見られるのは、動いたのにパスが来ず、「あ~!」と顔を上げて動きを止めてしまう選手です。
しかしサッカーはボールを持った選手がプレーを決めていくゲームです。自分がこうプレーすればいいと考えても、ボールを持った選手はそれぞれに自分が最善と思ったプレーを選択する権利を持っています。その選択をリスペクトし、次の状況の中で自分は何をするかを決めなければなりません。
この一連のプレーで、旗手は実に3秒間で三つの動きを見せています。ボール保持者の選択を見て、瞬時に角度を変えた「動き直し」を連続し、3回目の動きでボールが回ってきたときには、明確な突破の「絵」が描けていたのです。その中で、彼が一瞬でも「あ~、せっかく動いたのに!」と感じていたら、こんなプレーは生まれなかったでしょう。
このプレーが「リスペクト」によって生まれたものであるという思いつきは、最初、私自身も戸惑わせました。しかし、すばやい判断を連続させるためには、味方選手の決定を素直に受け入れる心の準備が必要であることに思い至りました。その心の働きこそ、「リスペクト」というものの重要な本質の一部なのではないかと、思い至ったのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2022年2月号より転載しています。
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