チーム紹介
JFAアカデミー福島
全寮制による中高一貫での選手育成を実施しているJFAアカデミー福島は、2011年の東日本大震災後から静岡県御殿場市を活動の拠点としている。静岡に行ったことがない人は場所をイメージしづらいかもしれないが、神奈川との県境に近い静岡の東の端とでも言えばいいのだろうか。あるいは「富士山の近く」と漠然と言ったほうが分かりやすいかもしれない。天気次第ではあるが、日本一の霊峰の雄大な姿を見ることができる立地だ。
ここへ行くには車を使うのが最も便利なのだが、電車移動ならばちょっとのどかな御殿場線を使うことになる。最寄りの岩波駅を下りてタクシーに乗ればすぐだが、気合いのある人なら歩いてもいい。宿舎も近くにある時之栖のグラウンドか、あるいは裾野グラウンドと呼ばれる幾つものグラウンドが重なり合うように居並ぶ一帯が、JFAアカデミー福島の練習場所となる。
「本当に恵まれた環境で、『ありがたい』というほかないんですよ」。そう言いながら施設の諸々を解説してくれたのは総務を務める堤葉子さん。女子も含めて総合的に選手を支えるポジションであり、選手からは「優しい」(金城ジャスティン俊樹選手)、「すごく、優しいです」(DF堀大貴選手)と慕われる、チャーミングな「アカデミーのお姉さん」である。ちなみに「写真は絶対に駄目です!」と言われたので掲載できない。想像力で補ってほしい。
JFAアカデミー福島の宿舎もある時之栖はリゾート施設でありスポーツ施設でもある。敷地内にある人工芝グラウンドは正規サイズをきっちりと取れて公式戦の実施も可能な競技場で、簡易ながら客席も存在する。高円宮杯プレミアリーグの公式戦も基本的にこの会場で実施されている。
移転後も練習が授業の一環として認められる福島県立富岡高校のカリキュラムを継続して受けながら、選手たちは技と体を磨いている。練習は基本的に月曜日がオフ。普通のクラブチームではあり得ない午前と午後の「二部練習」を使えるのが、このシステムの大きなポイントだ。取材をした木曜日も、選手たちは午前と午後の二部に分かれて体を動かしていた。
午後の部ではポゼッションでの攻守の練習やセットプレーの確認などを経て紅白戦を実施。プレミアリーグに参加しているチームと、静岡県リーグに参加しているチームが、それぞれ週末の公式戦を想定したオーダーで“ガチ”にやり合う。「毎週木曜日にやっている恒例行事ですよ。下からの突き上げができるし、刺激になる」とチームを率いる中田康人監督はその意図を説明する。実際、県リーグの選手たちが必死の形相でボールへ食らい付いていくシーンが観られるなど、“擬似公式戦”のような迫力あるゲームが展開された。
中田監督は「選手同士でも、指導者と選手でも密な関係を作れる全寮制のメリットは大きい」と語る。金城選手も「ずっと一緒だから、選手同士は本当に仲が良いんです」と笑う。学校での様子も含めて相互に「筒抜け」のようで、寮生活であるがゆえに食事や睡眠のサイクルが大きく乱れる心配もない。現在は各個室にテレビは置かず、携帯電話の使用にも一定の制限を加えるなど、「サッカーのための生活」を重視して過ごしている。
目下の課題は「おっとりした子が多い」ことだそうで、ハングリーさや競争心をいかに引き出すかを追求しているとのこと。そのためにもギリギリのタフな戦いを経験できるプレミアリーグの舞台はチームにとっての財産となっている。残留は当然の目標だが、「一つでも上の順位を目指す」ことが夏以降に向けたチームとしての目標である。
ローカルな雰囲気漂う御殿場線に揺られての旅。車窓からの風景を楽しむのも一興である。
おいしそうな店が並ぶ時之栖の施設内。グラウンドへ行くのをやめて寄り道したくなることは確実。
午後練習を前に腹筋に励むDF石井幹人選手。
笑顔の可愛さに定評のある中田康人監督。選手たちに監督評を聞くと決まって出てくる言葉は「熱い」。
奥に見えるのはグラウンドに併設されたトレーニングジム。その機材は福島県の広野町から運び込まれたものだ。
重視されるポゼッション練習の礎とも言える“鳥かご”。試合で起こる多様な事態が詰まっている
中田監督の指示に聞き入る選手たち。監督も指示するだけでなく、積極的に選手たちへ質問を投げかけていく。
毎週木曜日に恒例となっている紅白戦。単なる練習ではなく、本気度の高い“勝負”をあえて演出している。
選手に指示を出す須永GKコーチ。JFAアカデミー福島の発足初年度からチームにいる、いわば“生き字引”である。
監督・選手コメント
中田康人 監督
開幕5戦して勝利なし。この結果は驚きではなく想定の範囲内でした。昨年から試合に出ているような選手がほとんどいませんからね。けれども、どうしようもない差があったかと言えば、そういうわけでもありません。あと少しのところで勝てていません。手ごたえがないわけではありません。たとえば(金城)ジャスティンは昨年“ガラスのハート”を見せてしまうことがあったんですが、今年は本当にたくしましくなっていますからね。プレミアリーグの中断期間はadidas CUP日本クラブユース(U-18)選手権の東海予選に初めて出させていただいて、大きな経験を積むことができました。その成果を生かしたいと思っています。
MF 7 金城ジャスティン俊樹 選手
去年、プレミアに出ていた人が少なくてうまくいかない部分がありましたが、徐々に良くなってきていると思います。練習からみんなを鼓舞したりということは意識していました。この中断期間でWESTの1位である名古屋グランパスU18さんに勝つことができて、それは自信になっていると思います。このチームはみんな寮でも一緒で、一日中一緒で、グラウンドの中で解決できないことでも、寮に戻ってから解決できるのがこのチームの強みですね。
DF 5 堀大貴 選手
(今年の選手は大人しいという指摘もあるけど?)いや、そうでもないと思います(笑)。最近は特に雰囲気もいいですし、盛り上げられていて、いい感じですよ。6年間も一緒に過ごしていると、『こいつはこういう性格だからこういう接し方をしたほうがいいな』とか分かりますし、サッカーでも『こいつはこういうプレーが得意だから、このパスを出そう』とか自然と出ますから、それは本当に僕らにしかない特長だと思います。プレミアリーグに向けては、去年3位でしたし、『去年は良かったのに、今年は駄目だな』とか絶対に思われたくないですね。
チームWebサイト
http://fukushima.jfa-academy.jp/