チーム紹介
三菱養和SCユース
JR山手線。新幹線を除けば、恐らく最もメジャーなこの路線の北側に「巣鴨駅」は存在している。山手線の各駅の中では小規模な部類のこの駅から歩くこと、わずかに3分。商業地を抜けて住宅地へと入るまさにその場所に、「公益財団法人三菱養和会巣鴨スポーツセンター」はある。
各種のトレーニングルームや器械体操練習場に武道場、さらにプールやゴルフ練習場まで備えた総合スポーツ施設だ。その施設内にもちろん、人工芝を敷いたサッカーのグラウンドも存在する。「本当に恵まれた立地と施設ですよね」。そう言って笑顔を浮かべるのはユースチームを率いる山本信夫監督だ。都心部ではグラウンドを確保すること自体が容易ではないのだから、その言葉も当然だろう。
加えて、養和には40年の歴史もある。多くの名選手を輩出してきたそのグラウンドには今もたくさんの選手が集まってくる。山本監督は「当然、地元の選手が基本ですよ」と前置きしつつ、「埼玉や千葉、それに神奈川から通ってくる子もいます。駅からこの距離なので、1時間ちょっとあれば通えるという範囲はかなり広いんです」と明かしてくれた。
伝統あるサッカースクールから選抜されるジュニアチーム(セレクションはなく、スクールからの選抜方式だ)、そのジュニアから精選された選手と外からやって来た選手で構成されるジュニアユース。共に巣鴨に加えて調布にももう1チームがあり、この二つのジュニアユースから持ち上がったメンバーに若干名の外部選手を加えて構成されるのが、プレミアリーグを戦う三菱養和SCユースだ。ほとんどの選手が「養和育ち」とあって、その結束は強くて太い。ユース前監督で、現在は中学1年生の指導を主に担当する生方修司氏は、「この子たちは本当に仲が良いんですよね」と目を細める。
練習を観ていれば、その言葉も納得である。練習前に交わされる何気ない会話にも、それはよく表れている。「そのへんは本当に“ゆるい”ので」と主将の池田樹雷人選手が語る上下関係の薄さもよく見て取れた。「僕なんかは後輩に、よくいじられます」と苦笑を浮かべたのは、攻撃の中心であるFW下田悠哉選手である。山本監督は「果たして善いことなのか悪いことなのか正直に言うと、僕には分からないのですが」と言いつつ、「でもこの雰囲気は養和の伝統です」と言う。
ただし、単に“ゆるいだけ”のチームならば、高円宮杯プレミアリーグに残留を続け、この夏にはadidas CUP全日本クラブユース選手権(U-18)を制することなどできはしないだろう。リラックスムードのあった体幹やスプリントのトレーニングを経て、ボールを使った練習が始まると、徐々にグラウンドの空気は変わっていく。2グループに分かれてのハーフコートゲームが始まると、ピリッとした雰囲気が強まっていく。「ゲームになると、みんな顔が違いますよね。性格も変わる」と池田主将。それまではこちらの「カメラ」を意識した様子もあったが、その余裕も消えていった。ガチガチとハードに当たり、どん欲にゴールを目指す。“養和らしい”サッカーがそこに出現していた。
ゲームは形式的なものではなく、スコアを数えて勝敗をつける形。2本目は勝ち同士と負け同士が当たって、明確に順位を決める形になっていたのも印象的だった。これが3本になると総当たり戦で、やはり順位を決めるのだという。負けたチームには腕立て伏せなどの軽い罰則も付いてくる。「ミニゲームであっても絶対に勝ち負けにはこだわらせます。『サッカーを楽しむ』のが養和のベースですが、それは勝ち負けにこだわらないという意味ではありません」(山本監督)。
このゲーム形式の練習ではAチーム、Bチームといった区別はなく、レギュラーもサブも入り乱れてのバトルとなる。主軸の3年生も本気モードで手を抜く様子はない。「(レベル別に)分けてやったほうがいいという意見もあると思いますが、1年生や2年生にとっては本当に良い経験になるし、刺激にもなります」と山本監督。3年生からは遠慮している下級生がいると、逆に「もっとガンガン当たって来い!」と怒られることもあるという。養和が代替わりしても質が落ちない源泉は、なるほどこの練習にあったのかと得心させられた。
プレミアリーグの再開初戦は東京Vユースに7-1の圧勝となった。庄内文博コーチからは試合前に「養和旋風がここで終わるのかどうかが問われる試合だ」と煽られて燃えていた選手たちが見事に結果で応えたと言える。確かに夏はチャンピオンになったが、それはもう終わったこと。リーグの状況が楽観できるものでないこともよく分かっている。「僕らはチャレンジャーですから」。池田主将の一言に、養和旋風の「秘密」が凝縮されていた。
JR巣鴨駅。都営三田線も走る至便なこの駅が、三菱養和SCユースの拠点である。何とここから徒歩3分。少し急げば、2分で到達可能
総合スポーツ施設である巣鴨スポーツセンターの門構え。柵の奥に見えるのが、プレミアリーグの会場ともなる人工芝のサッカーグラウンドだ
練習前、選手に指示を出す山本監督。この写真では笑顔だが、「基本、厳しい」(池田主将)。勝負にこだわる緻密な指導でチームのレベルを引き上げた
練習始めに取り組んでいる体幹トレーニング。佐藤洋トレーナーからは静止できない選手や不十分な姿勢の選手に対してすぐさま「修正」が入っていた
スプリントのトレーニングでは競争も意識。一緒に走る選手に負けまいと力む余りに笑顔もこぼれる
練習中のグラウンド脇では、この後に練習試合を予定しているU-13チームがミーティング。同じグラウンドで異なる年代の選手たちが相互に刺激し合っている
バチバチと火花も飛び散るゲーム形式のトレーニング。練習ながら明確に「勝敗」を意識付けさせていたのが印象的だった
チームのエースであるディサロ燦シルヴァーノ選手。全国区の実力を持つ彼を止められれば、そのDFも全国区。自然と気合いも入るというもの
クールダウン中の選手が視線を向けるのは、U-13の練習試合。「おい、あいつうめーな!」。そんな会話が自然にできるのも一貫指導の特色だろう
監督・選手コメント
山本信夫 監督
夏の全国大会(クラブユース選手権)で優勝したということで、その気持ちの持ちようは今までに体感したことのないものだったと思います。しかしプレミアリーグでは決して良い順位にいるわけではありませんし、選手たちもそのことはよく分かってくれていたのではないでしょうか。一戦一戦、目の前の相手に勝っていくということしかないと思っています。その結果として養和の存在をアピールできれば、ベストですね。
DF 5 池田樹雷人 選手
全国優勝した後も、浮かれずにオンとオフをハッキリさせながらちゃんとできていると思います。チームの状態は良いですよ。練習では合間にわいわいやっていたとしても、行くときはガッツリ行く。1年生とか関係ないですね。遠慮は要らないですし、いまは練習から仲良しクラブではない厳しい部分を出せていると思います。
FW 10 下田悠哉 選手
仲は良いですし、良い雰囲気でもやれていると思います。オンとオフはハッキリしています。ゲーム形式の練習は山本監督も勝負にこだわってやっていると思いますし、僕らもそうです。夏はチャンピオンになりましたけれど、そこから切り替えられたと思います。浮かれた様子の下級生は確かにいましたけれど、そこはちゃんと僕ら(3年生)が言いました。
チームWebサイト
http://www.yowakai.org/school/junior/soccer_ikusei.html