2020.01.10
第28回全日本高等学校女子サッカー選手権大会が1月3日(金)に開幕し、連日熱戦が繰り広げられている。ここではピッチサイドで試合を応援する方々にスポットライトを当て、ピッチ上に秘められたストーリーをお届けする。
準々決勝 2020年1月6日(月)/三木総合防災公園第2陸上競技場
東海大学付属福岡高校 0-2(前半0-0、後半0-2)修徳高校
試合前から東海大学付属福岡高校(九州2/福岡)の応援席は盛り上がっていた。部員たちが集った一角がけん引するように大きな声を上げる。ただし、リードする声は男の人のものだった。
よく見ると、選手たちはジャージなのにリード役はただ一人、上下ともユニフォーム姿だ。手作りの背番号は52。「これは自分の年齢なんです」。父母会の会長、川名哲也さんはそう言ってほほ笑んだ。
娘の川名遥香は背番号2を着けて、右サイドバックとしてフル出場したが健闘むなしく全国大会常連の修徳高校(関東2/東京)に0-2で敗れた。哲也さんもピッチに声援を送り、メガホンをたたき、完全燃焼した80分間だった。
「野球しかしたことがなくて、サッカーは全然分からないんです」という哲也さんだが、娘が幼稚園から始めたサッカーに付き添いつつ、自分も楽しんだ。「お手伝いをしているだけです。今も、オフサイドはよく分かっていないんですよ」と笑うが、4級審判の資格を取り、地元・宮崎の少年団のコーチにもなった。
娘が福岡で寮生活を始めて3年目、父母会の会長を任されることになった。「春の練習生の受け入れ、父母会への年間スケジュールの説明、行事ごとの連絡、会費の集金…。それくらいですかね」。50人以上という部員の父母会員は福岡だけではなく、九州各地や沖縄県、山口県などに散らばっている。その大所帯を手際よく切り盛りできるのは、さすが銀行員といったところかもしれない。
仕事と同じくパワーを注ぎ込めるのは、娘の高校3年間が自分にとってもかけがえのない時間だと知っているからだろう。「他の父兄の方々も同じように考えていると思うのですが、親が付き添えるのはここまでだと思うんです。だから、一生懸命支えたいんですよね」。限られた、大事な時間なのだ。
この大会は誰もが来られるわけではない舞台だ。貴重なチャンスならば、全力で楽しんだ方がいい。「自分がやれることは精いっぱいやろうとも思いまして、最後なので恥ずかしげもなく頑張ってしまいました」。声を枯らす姿は、確かにチームの一員だった。
大会初勝利の勢いでベスト4まで駆け上がった前回大会のような、快進撃とはいかなかった。だが、表情は選手に負けないくらい晴れ晴れとしている。
「今回も勝ち進みたかったけれど、簡単なことではないですからね。私は3年連続でここに来られたので、最高です。娘も、やり切ったんじゃないでしょうか。私にも涙はありませんよ。本当に楽しませてもらいました。最高の冬でした」
まるで、選手のような語り口。親子が心を一つにして、完全燃焼した3年間だったに違いない。
大会期間:2020年1月3日(金)~2020年1月12日(日)
大会会場:三木総合防災公園(兵庫県三木市)、五色台運動公園(兵庫県洲本市)、いぶきの森球技場(兵庫県神戸市)、ノエビアスタジアム神戸(兵庫県神戸市)