SAMURAI BLUE

長谷部 誠

2025.10.05

サッカー日本代表コーチ

長谷部 誠

長谷部誠コーチ 囲み取材一問一答
※この取材は2025年10月5日に行われました

――昨日(10月4日)、アイントラハト・フランクフルトのセカンドチームの試合があったはずですが、どのようなスケジュールで日本に来たのですか。 「今、日本でAジェネラルライセンスの指導者講習を受けさせていただいていて、その中期講習がちょうど先週の月曜から土曜まであったので、日本代表活動が始まる1週間早く帰国させてもらい、今日に至ります」

――指導者の勉強を始めると今まで気づかなかったものに気づくと内田篤人さんが言っていました。何か感じることはありましたか。 「まだ自分はコーチという立場ですが、コーチと監督というのは全く別物だと感じています。やはり背負うものが違うし、責任が違う。そういう部分は日々、感じるところです。今現在、コーチとしてやらせてもらっていますが、ゆくゆくはより責任のある立場でやりたいと、監督を見ていて思います」

――森保一監督ほか、監督という仕事を務める方々に求められる強みは何だと思われますか。 「ひと言で言えば、覚悟でしょう。今も話した通り、責任感、そういうものからくる覚悟が、やはり監督は違うと思います。もちろん森保監督もそうですし、今、自分が所属するアイントラハト・フランクフルトのUー21の監督もそうです。時々トップチームにも行きますが、ディノ・トップメラーはずっと一緒にやっていますし、これまでの選手時代も含めて、そういう覚悟というか、凄みを感じます」

――日本代表戦ではスタンドから試合をご覧になっていますが、3月の試合ではベンチに入りました。どういう経緯があったのでしょうか。 「ベンチ入りできる人数が限られているので、3月までは上から分析スタッフと一緒に見ていました。ピッチと同じ目線で見るものと上から見るものでは、全くサッカーの見え方が違ってくるので、そういうものを無線でベンチと繋いで伝達していました。それは基本的には今もやっているのですが、3月の時は自分たちの(ワールドカップ)出場も決まり、ベンチの中での活動を経験させてくれようとしたのだと思います。監督には深いところまで、しっかりとは聞いてないですが」

――意見を求められたというよりも、森保監督が経験させてくれたという流れでしょうか。 「そこも表現が難しいところです。日本代表という場所はベンチに入るかどうかということだけではなく、ましてや指導者として経験を積む場でもありません。やはり日本代表というのは勝つところです。大前提としてその考え方がありますが、年齢の近い前田(遼一)さんや僕のような若い指導者に対しても、日本サッカーの未来を見据えて成長を促してくれています。それは監督だけではなく、名波(浩)さんや(斉藤)俊秀さんもです。みなさんのそういう思いはベンチに入るどうこうだけではなく、日々感じています。自分はしっかりとそれを理解して、素晴らしい場所でやっていかなければいけないと思っています。

――話が遡りますが、日本代表コーチングスタッフに加わることになったきっかけを教えてください。 「森保監督が2024年の欧州選手権の視察に来られて、そのときにフランクフルトでの試合を一緒に観戦する機会がありました。その流れから食事をさせてもらって、監督から『ぜひ』という話がありました。ただ、僕は正直、本気だとはあまり思っていませんでした。そのあとしばらくして、JFAのスタッフと話をしたところ、監督は本気だという話をいただきました。自分自身も、指導者の道に進んでからこんなにすぐに日本代表に関われるとは全く想像もしていなかったですし、そこで考えることはいろいろありました。それでも結構早くに、自分の中でもぜひやりたいという気持ちが出て、監督に伝えさせていただきました」

――現在、代表活動中はどういう役割を担っているのでしょうか。 「みなさんご存知の通り、名波さんが攻撃を担われていて、守備の部分では俊さん、セットプレーは前田さん。前田さんは攻撃も担当されたりしていますが、その中で自分は守備のところを俊さんと一緒にやってほしいと言われています。ただ、守備だけではなく攻撃のところでも名波さんが意見を求めてくださって。『こういう時はどう思う?』『このシーンはどう思う?」という会話の中で、攻撃に関しても自分の意見を言わせていただくこともあります。基本的な役割としてはどちらかといえば守備がメインではありますが、いろいろなことに口を突っ込ませていただいています(笑)」

――長谷部さんが現役当時の代表と現在の代表チームと比べて「ここは変わった」「成長した」と感じるところはありますか。 「難しい質問ですね。あまり比較ということを個人的にしないので、今がどうかということがすごく大事だと思っています。ただ今、何かを比較するのであれば、やはり世界の強豪国と比較する部分が大事だと思います。そういう意味で言えば、今の選手たちは、世界のトップリーグでプレーする選手がすごく多くなってきましたし、世界トップクラブでプレーする選手もいます。その中で、僕が例えばドイツに行った当時、チームメイトにブラジル代表の選手が1人いたのですが、それだけで自分の中で『Wow』なんですよ。自分がブラジル代表の選手と一緒にプレーしているのか、と。ただ、おそらく今の選手たちはそれがノーマルなんですよね。何かと比べるわけではなく、日本サッカーはもうそういうフェーズまで来ていると思いますし、それは選手だけではなくて、代表チームのオーガナイズやサッカー協会としての目指すべきところなどもそうです。自分が代表を退いてから何年も時間が空いていますが、ここ1年間携わらせていただいて、選手だけでなく全ての面で成長しているな、と感じます」

――次のワールドカップは広大な場所で、移動もこれまでになかったほど厳しいです。長谷部コーチは南アアフリカやブラジル、ロシアなど移動があった大会を経験していますが、その経験から言える次のワールドカップを制するためのポイントはありますか。 「僕だけでなく、過去からの学びは日本サッカー協会の中にも代表チームの中にも、明らかに積み上げられていると感じています。例えばキャンプ地の選定や気候・時差への対応など、そういうオーガナイズは自分が現役でプレーしていた時よりも明らかに周到に準備されています。そういう環境面のオーガナイズの部分について何か聞かれれば、僕自信ももちろん答えられることはあると思いますが、それはすでにメディカルチームなどがしっかりやってくださっていると感じています。あとは選手たちに対して、自分がワールドカップ3大会で経験したことを伝えられる場面があればもちろん伝えていきますし、聞かれたらもちろん答えますが、大前提として、その経験というのはほんとに一面的であって、時々、経験が意味をなさない時もある。そういうものも含めてしっかりと自分でバランスを取って、じゃあこれは伝えた方がいいな、これは伝えなくてもいいな、これは選手たち自身で考えてやる部分だな、としっかりと見極めて伝えていくこと、選手たちと接していくことが大事かなと思っています」

――その中でも特に伝えていることや、伝えたいことはありますか。 「どの選手に伝えるかというのがもちろんあります。ワールドカップを経験している選手たちも何人かはいますし、逆に初めて出る選手に対してはより細かく伝えることがあるかもしれません。あとは経験のある選手たちと積極的にコミュニケーションを取ることも大事だと思っていて、彼らと僕は多分、ある程度同じ目線で話ができると思うんです。そういう部分で、初出場の選手たちに対しての声がけも大事ですが、経験ある選手たちに対してもしっかりとコミュニケーションを取りたいです。具体的に何かと言われたら難しいですが、本大会に近づいてくるとそういう場面もあると思います」

――今、代表経験者やワールドカップ出場経験のある元選手で、現在監督として成功している方の中では森保監督が突出した存在だと思います。ヨーロッパではニコ・コバチさんやシャビ・アロンソさんらのような成功者もいます。名選手が名監督になるためにはどういうことが必要になると考えますか。 「それに答えはないとは思います。ただ個人的に感じるのは、簡単に言えば、失敗することを恐れないと言いますか、『失敗してなんぼ』の世界じゃないかなということです。自分がどうかは置いておくとして、選手として高いところまで行った人が失敗無しにすぐに指導者として成功したかと言えば、そうではないと思います。シャビ・アロンソやニコもそうですし、他の方も皆さん、うまくいく時とうまくいかない時の両方を経験をされていると思います。一番の失敗は何もトライしないことだと思っています。ただ右肩上がりに階段を上っていくのではなく、やはり失敗を恐れずにどんどんチャレンジして、難しいことにどんどんチャレンジしていくことで、最終的に何か大きなものにたどり着くと思っています。きっとうまくいかない経験を経てより良い指導者になっていくのだと思いますし、自分自身はそういうものを客観的に見て、誰か他人が思う成功や失敗を気にするのではなく、自分自身にとって一番大事なことを大切にしてやっていきたいと思っています」

――現在の日本代表に長谷部さんと長友佑都選手がいることは非常に大きな要素だと思います。長友さんとはどういう会話をしていますか。 「長友に関しては本当に、日本代表チームにとって非常に大きな存在だと日々感じています。ただおそらく、彼に厳しく言えるのは自分しかいないと思っています(笑)。彼も感じていると思いますが、活動のたびに彼には厳しい言葉をかけています。Jリーグでの彼のプレーはもちろんチェックしていますし、そのときにバックパスが多かったので『バックパスが多すぎる、前へプレーしなきゃダメだ』というような話をこの間はしました。彼に対しても他の選手と変わらないような、指摘するところはしっかり指摘するというところが自分の役割だと思っています。ただ、日本代表チームにとって、とても大事な選手であることは変わりありません。でも同じように、他の選手たちとの競争もあります。ワールドカップメンバーに入るために彼はピッチの上でもっともっとやらなければいけないと思いますし、それは毎回、彼に伝えています」

――ブラジル大会の時もワールドカップ優勝を口にする選手がいましたが、結果はグループステージ敗退でした。高い目標を達成するためには何が必要で、コーチとしてどんな取り組みをしたいですか。 「当時との大きな違いは、やはり監督がその目標を示しているところではないでしょうか。2014年の話をされましたが、当時もワールドカップ優勝という発言する選手は多くいました。ただ、(アルベルト・)ザッケローニさんは、やはり自分たちの世界での立ち位置をしっかりと考えなさいと言っていました。もちろん自分も優勝したい、全部勝って優勝したいが、しっかりと地に足を付けて自分たちはやっていかないといけない、というスタンスを取られていました。それも一つのやり方であり、ザッケローニさんのやり方です。僕はもちろんいいと思います。今は監督がはっきりと優勝ということを公言していますし、選手がみんながそれを共有してやっているという意味では、そこが大きく違うと感じています。ただ、だからといって今の代表チームが何か夢を見ているのかというと、そういうわけでもありません。我々が、本当にワールドカップで優勝するために何をしなければいけないか。監督はそれを逆算してやっていると、間近で見させていただいてすごく感じています。よく監督も口にしますが、11人だけでは絶対に優勝できません。そういうことを考えたときに、例えばこの間の9月シリーズの戦い方は、ワールドカップ優勝という目標が大前提にあるからこそあのような戦い方になったわけです。今は少し怪我人が多くなっていますが、優勝から逆算すると多くの選手がより成長していかないといけません。怪我というイレギュラーが起こったときでも、他の選手たちにとっては成長するチャンスなんだと捉えていて、そういうところが全く別物だなと中にいて感じさせてもらっています」

――ワールドカップに向けて、コーチとして何か働きかけていきたいことはありますか。 「ここまで約1年間、日本代表コーチという立場で仕事をさせてもらっていますが、よりもっともっと入っていかないといけないな、ということは自分でも感じています。自分の中では9月、10月の活動で、チームにより自分の何かを入れていきたいとは思っています」

──クラブでの指導と日本代表コーチの両立について、日頃はどういう活動していますか。 「選手から変わって指導者という立場になり2年目になりますが、最近少し話題になっていた言葉にもあったように、もう働いて、働いて、働き倒しています。少しでも時間があれば選手たちの映像を見たりしています。これまでの選手としてのサッカーの見方と、指導者としてのサッカーの見方が全く別物になってきました。もちろん選手としての視点が生きることもありますが、やはり全然違う視点があります。時間があればパソコンを開いて見ていますが、一方でガッとやりすぎると、自分の中では新しいアイディアが生まれなかったりもします。だから結構、何か新しいインプットがあるように1人で走りながら頭で違うことを考えて、バランスを取ってやるようにしています。代表に関しては週1、2回、オンラインで代表のコーチングスタッフとミーティングさせていただいて、メンバー選考だったり、自分が担当する選手の状況をフィードバックしたりしています」

──ヨーロッパを拠点にしているということで、他のコーチとは違う役割もあるのでしょうか。 「アイントラハト・フランクフルトの試合と重ならなければ、ヨーロッパでプレーする選手の試合も見に行きます。そういうことも、もう少しやっていきたいと思っています。あとは向こうで選手とコミコミュニケーションを取っていきたいですね」

──コーチ就任から1年が経過して、具体的にこれからどんなことをしていけそうでしょうか。 「自分の頭の中にはもうイメージがあって、それを進めています。活動中のピッチの中での戦術的なところもそうですし、そうではないところでも。ただ、それをいまここで語るのは難しいですね……数カ月後にまた質問してください(笑)。その時に話せることがあるのではないかと思うので」

──練習で任されるパートも出てきましたか。 「今は守備で俊さんがメインでやられているところに自分も入って、気になるところがあったら止めて話したりしています。メインで何か担当するということであれば、試合翌日のトレーニングや、試合に出なかった選手たちのトレーニングを遼一さんと一緒にセッションを持ちながらやることがあります。そういうところは名波さんとか俊さん、監督もそうなのですが任せてくださるので」

──指導者としてワールドカップ出場権を獲得するまでの時間や、現在の本大会に向かっている時間の刺激や緊張感、心境はいかがでしょうか。選手時代とは感じ方が違いますか。 「そうですね。自分は選手として3度ワールドカップに出場させていただきましたが、自分にとってはもしかすると、ワールドカップに関わることのできる最後のチャンスかもしれません。一方で、何が起こるかわからないというか、もしかしたら今回のワールドカップに自分がいない可能性もありますし。そういう思いを持ちながら日々自分ができることを常に考えてやらなければいけないと思っています。選手の時はどちらかというと、ケガをしないことや、自分のパフォーマンスをできるだけ上げること、代表で活動する期間が限られているので、自分が成長するところにフォーカスした部分がありました。それに似ているところもありますが、今はどちらかというと、自分が日本代表チームのために、日本代表チームがワールドカップで勝つために、日々何ができるかということをしっかりと考えて、指導者として、一つでも多くのことを学ぼうと思っています」

――指導者として「これはやろう」「これはやらない」など、心に決めていることはありますか。これまでいろいろな指導者の方から学んできた物があると思います。 「自分の中ではそこまで決めていることはありません。今の段階であまり決める必要はないと思っている部分があります。多くのことを吸収して、インプットしていきたい。ピッチの中のプレーモデルも、それ以外のチームづくりことであっても、まだまだ自分はオープンな姿勢で、多くの方のやり方を見て自分で作り上げていきたいなと思っています。まだ作り上げている段階ですね」

――欧州の第一線でプレーし、今は指導者になりました。代表選手でもあった長谷部さんにしか無いものがあると思いますが、日本がワールドカップ優勝に向けてやるべきことなど、見えている部分はありますか。 「世界の第一線でやってきたと言ってくださったのですが、現在自分はアイントラハト・フランクフルトU-21のコーチなので、世界の第一線ということはなかなか言えないと思います。ただ代表選手たちがいま一緒に仕事をしている監督たちで過去に自分も一緒に仕事をした方もいますし、先ほど出たニコもそうですが、ヨーロッパにいるからこそあるネットワークが自分にはあると思っています。それを強みと言っていいのかわからないですが、自分がヨーロッパにいる利点であると思います。そういう環境で学べることはもちろん学んでいきたいです。代表チームとクラブは、僕の中で全く別物なんです。自分もそうでしたが、代表に来る選手たちというのは、やはり所属チームのやり方や、そこでの成功体験など、そういうものにすごくこだわりがあって、代表が強くなるためにそれらを「こういうのもいいんじゃないか」「こういうのもあるんじゃないか」と表現してくれます。それはすごく素晴らしいことだと思いますが、代表には代表のやり方がありますし、限られた時間の中でやらなければいけないことがあります。ヨーロッパでプレーする選手たちがそれぞれにやっているサッカーの良さを取り入れながらも、日本代表のやり方としてこういうものがあるよ、ということを理解して選手たちとコミュニケーションを取ることも、自分にできることかなと思っています。時に選手のそういう思いが強すぎて、もっとこうしたらいいじゃないか、となることもあると思いますが、そういったものを『それはわかるけど、代表のやり方はこれで、時間が限られた中でやれるのはこれだよ』というように言うことが自分の役割かなと思っています。そういう何か、チームのバランスのようなものを整える仕事も自分の中であるのかなと思っています」

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