アクセス・フォー・オールハンドブックテキスト パート3の6 様々な課題や複合的な要因について 【43から44ページ】 「アクセス・フォー・オール宣言」の観点で、女子、LGBTQ+、障がい者、在留外国人、貧困問題と5つのカテゴリーに分けて、その課題と事例をご紹介してきました。しかしながら、私達が気づかなければならない障壁はまだ残されています。さらにいくつもの課題が複合的に重なり合っていることもアクセスを阻む一因となっています。様々な課題を丁寧に理解していくことが、解決のきっかけにつながっていくと考えています。 (1) 復興支援活動 災害直後の迅速な対応、施設整備の推進支援防災・減災の取り組み・備え JFAは、これまで東日本大震災や熊本地震、集中豪雨、登半島地震等、日本国内での様々な災害に対して、サッカー界を挙げて被災地の復旧と復興に取り組んできました。甚大な被害を受けた地域の人々やそこで活動するサッカーファミリーが一日でも早くサッカー活動を再開できるよう、チャリティーマッチの開催や義援金・支援口座の開設、FIFAやAFCをはじめ世界中のサッカーファミリーの協力も得て、サッカー用具の提供や施設の整備も実施しています。2024年1月の能登半島地震発生後、JFAは、石川県サッカー協会や日本財団等多くの団体と連携して復興支援プロジェクトを立ち上げました。特に子ども達の心のケアに力を入れ、トップアスリートを能登地方6市町(輪島市、珠洲市、七尾市、能登町、穴水町、志賀町)と内灘町に派遣して各市町の小・中高校と保育園・幼稚園100カ所以上で「スポーツ交流会」や「JFAこころのプロジェクト」を実施しています。 防災・減災 今後起こりうる災害に対応するため、「防災・減災」(ナショナル・レジリエンス)におけるサッカーの役割についても検討を進めています。災害時の備えとして、普段のコミュニティーの中やチーム、仲間、スタッフと災害に備えたスキームを共有する事の大切さを広めていけたらと思っています。 (2) 離島等活性化事業 サッカーとつながる機会の創出サッカーを通じた子ども達の健全育成 日本には14,120の離島があり、そのうち417の島に人が住んでいると言われています(2024年4月1日/国土交通省)。人口の少ない離島を含め、少子高齢化や都市部への流出等で過疎化が進んでいる地域も増えており、そういった地域における教育環境やスポーツ環境には不利な点が多いとされています。サッカーをするにも同年代の子ども達がチームを組んで試合を楽しんだりする機会はそう多くはありません。JFAやJリーグは、自治体や地域の人々と連携し、地理的な要因でサッカーにアクセスしにくい子ども達を対象にフェスティバルやサッカー教室等を開催し、新しい友達をつくったり、多くの仲間達とサッカーを楽しんだりする機会を提供しています。 ●JFA×KIRINキリンフレンドチャレンジカップ  JFAとキリンとの連携事業として2023年10月からスタートしました。この取り組みは、“サッカーで人と社会のつながりを広げ、日本中に笑顔を生み出す”ことを目的としたキリンとの価値共創活動の1つで、第1回は同年10月、人口約300人の利島(東京都)の利島村立利島小学校と世田谷区の東京農業大学稲花小学校の児童との交流会を実施(悪天候のため、オンライン開催)。第2回は、全国で2番目に小さい市の東京都狛江市の小学生が、全校児童51人という栃木県那須烏山市立境小学校を訪れ、親睦を深めました。 (3) 子ども達 児童養護施設や特別支援学校等への訪問子ども食堂や地域食堂を通じて JリーグやWEリーグでは、各クラブ所属の選手が地域の児童養護施設や子ども食堂等を訪問したり、子ども達を試合に招待したりする等して交流を図り、それぞれの地域に合った活動を続けています。 「ちふれASエルフェン埼玉」 WEリーグ開幕の2021年から児童養護施設や特別支援学校等を訪問しています。選手によるアイデアを取り入れて、運動が苦手な子どもでも楽しめる玉入れやしっぽとりゲーム等のレクリエーションやワークショップ等を実施しています。また、お揃いのクラブオリジナルのパーカーをプレゼントし、お揃いで着用することで子ども達との連帯感を深めています。 「浦和レッズ」 浦和レッズでは、2020年のコロナ禍に、スタジアム飲食売店の食品ロスを回避する目的で埼玉県子ども食堂ネットワークを通じて食品を寄贈したことをきっかけに、子ども食堂を利用する子ども達をスタジアムに招待しています。 (4) シニア世代 生涯現役、生涯スポーツ 大人の裾野も広げていく サッカーを生涯スポーツとして、多くのシニア世代に安全に楽しく続けてほしいと考えています。サッカーをする喜びや達成感を得ることを通して、挑戦する意欲や免疫力の向上、健康寿命の促進、仲間との交流等いろいろな相乗効果が期待できます。 「ウォーキングフットボール」 シニア世代のサッカー登録者数は年々増加傾向にあり、競技自体もレベルアップしています。一方、ウォーキングフットボールも広がりを見せています。ウォーキングフットボールは名前の通り、歩いて行うサッカーで、高齢者や運動が苦手な人、障がいのある人等、世代や障がい等を超えて気軽に参加でき、健康づくりや仲間づくりとして楽しむことができます。JFAは、イングランドで高齢者の健康のために行われたこの競技をベースに、多くの人々が安全にプレーできるよう「非接触(ボールを取りにいかない)」という独自のルールを設けています。各地でウォーキングフットボールのイベントが行われているほか、JFAでも「JFA×キリンファミリーチャレンジマッチ」、能登半島地震の復興支援の一環として行っている「JFA・キリンビッグスマイルフィールド」でもウォーキングフットボールを取り入れています。 「複合的な要因が重なりあってアクセスを阻んでいます。」  LGBTQ+であり障がい者であることや女性であり外国人であること等、複合的、重層的な社会課題を抱えるいわゆる「インターセクショナリティ」も、サッカーへのアクセスを阻む要因となります。ひとつひとつの課題を取り上げるだけでは、その個人にとっての障壁が見えづらく、解決の手立てを見失うこともあります。また、複数の要因が交差することで、課題がさらに深まりあるいは新たな特有の課題が生み出されることもあります。  サッカーの仲間に加わることができない理由は人それぞれです。介護で手一杯のためサッカーに関わることができない、体が弱くあまり激しい運動ができない等、目に見えづらい障壁のある方もいるかもしれません。すべての課題に目を配ることは難しいかもしれませんが、気づこうとするアクセス・フォー・オールの一歩を踏み出すことで、サッカーで豊かになる人生を少しずつでも増やすことができるかもしれません。