アクセス・フォー・オールハンドブック テキスト パート3の4 在留外国人 【35ページ】 「在留外国人」 日本人の人口が減少していく中で在留外国人の数は年々増加しています。将来、日本経済を支える存在になる可能性があります。日本にいる在留外国人は、2024年6月末現在、約359万人に上ります。以前に比べて増えているということを実感されている方も多いのではないでしょうか。 背景を知ってアクションを起こそう!  外国人選手の登録状況は下記のグラフの通りです。 在留外国人の数から考えると、非常に少ない数字で す。一方で、グラスルーツの環境で、登録とは関係 なく地域で自分達でサッカーを楽しんでいる人達が 数多くいることが予想されます。全国各地に外国人 コミュニティがあり、その多くは日本のサッカーファ ミリーのサークル外でプレーしています。  日本で暮らす外国人が、地域生活の中で日本社会 とつながるためには、子ども達にも大人にも、様々 なハードルがあることは事実です。サッカーを通じ て、共に楽しむ場、つながる場がつくれないでしょ うか。サッカーに関わるすべての人達にそうした機 会を届けていくことが、アクセス・フォー・オール の柱の1つである「デリバリー」という考え方です。 データ「JFA登録からみた外国人の参加状況 (2024年6月)」 登録選手数のうち、日本国籍以外の選手は、0.8%です。 このうち、外国籍の選手は、66.7%、外国籍扱いしない選手が4.6%、国籍なしが28.7%です。 日本国籍ではない選手の所属チームの割合は、第1種が26.9%、第2種が18%、第3種は22.2%、第4種は25.9%、女子が1.3%、シニアが6.7%です。 JFAへの加盟・登録基準について 国籍区分は、日本籍の選手、外国籍の選手、外国籍扱いしない選手と、国籍に応じて選択します。 日本で生まれ、学校教育法第1条に定める小中学校在籍している/卒業している選手、または学校教育法第1条に定める高等学校/大学を卒業している選手は、チームに1名まで外国籍の選手とはみなされずに登録ができます。 加盟チーム規則(抜粋) (定義)第2条次の用語の定義は、次の各号に定めるところによる。 (1)加盟チーム本協会の制定した競技規則に基づきサッカーを行うチームであって、本規則の定めるところに従い本協会に加盟したもの (2)準加盟チーム本協会の制定した競技規則に基づきサッカーを行い、日本国内に在留する外国籍の選手(日本国籍を有しない選手)を6名以上(フットサルの場合は4名以上)登録しているチームであって、本規則の定めるところに従い本協会に加盟したもの。ただし、Jリーグに所属するクラブの第一種チームはこの限りではない。 (出場資格)第12条準加盟チームは、その所在地の都道府県サッカー協会が主催する競技会にのみ出場することができる。ただし、当該競技会の主催者が出場を認めた場合はこの限りでない。 「する」 在留外国人のサッカーへの参加機会拡大について考える まだ十分な検討や施策の準備が進んでいるわけではありませんが、アクセス・フォー・オールの観点では、以下の点が今後検討しうることと考えます。 ●登録してサッカーをしたいと思った場合その機会が狭められていないか。 ●各大会等の規則はどうなっていて、どう影響しているだろうか。レベルや大会の性質、主催の目的に応じてあらためて見直してみたらどうなるだろうか。 ●登録せず別で自分達でやっている人達と共に楽しむ可能性はないだろうか。(把握、提供) ●情報やプログラムは届くのか。そもそも対象からはずして考えてしまっていないだろうか。 ●在留外国人が日本社会で置かれている状況が機会を狭めることがないだろうか。 ●在留外国人が日本社会で生活する上で受ける負担から一時的にでも解放される機会を広げることはできないだろうか。 「見る」 情報のアクセシビリティから見直してみる チケット入手、スタジアムへのアクセス等、情報提供の面でも、言語の問題をはじめ、様々な障壁が考えられます。受け入れる側がそもそも対象として捉えていない場合もあります。あらためて見直す機会をつくっていただけたらと思います。 「関わる」 外国人指導者の講習会参加のための配慮を 指導者資格の取得に国籍は関係ありません。情報保障という観点でも、障がい者の講習会受講と同様になります。日本語の読み書きが難しい場合、指導者ライセンスを取得するための対応できているでしょうか。言葉への対応は近年様々なツールも出て来ているので、対応の方法も広がってきています。私達が海外で講習会を受講しようとした場合、言葉の問題は基本的に自分で解決しなくてはならないことが多いのですが、少しの配慮(筆記試験を口頭試験に変更等)でカバーでき、参加してもらった結果、付加価値の高い講習会になることも多くあります。 「する」 サガン・ワールドカップ 言葉や文化の壁を超えて互いを知り合う機会として  外国人同士のつながりや日本人との交流を深め、佐賀県で生活する喜びを感じてもらおうと企画された「サガン・ワールドカップ」。株式会社サガン・ドリームスの協力の下、JICA(注)九州と佐賀県国際交流協会が、フットサルを通じた交流の場として、サガン鳥栖のホームスタジアムで開催しています。初開催となった2022年大会は、インドネシアやミャンマーの技能実習生で構成されたチームやウクライナ避難民を含む混合国チーム等、24カ国12チーム、約100名が参加しました。2023年は約180名、2024年は約230名と徐々に参加者を増やしています。  地域の担い手として外国人の存在感が増す中、災害時の避難方法を含め、地域のルールを知っていただく機会をつくることが課題でしたが、この大会は、言葉や文化の壁を超えるサッカーの力によって誰もが参加しやすい交流や情報交換の場となっています。技能実習生の受け入れ企業のほか、佐賀県内の大学生や高校生のボランティアも参加。審判員は、県庁サッカー部の部員が務める等、多くの協力者にも支えられ、多文化共生を実現しています。 「する」 留学生がサッカーを楽しめる場所づくり KickChat FC 筑波大学の学生支援GPプログラムである「つくばアク ションプロジェクト」として立ち上げられた KickChat FC は、サッカー・フットサルの練習会を行い、外国人留学生や日本人学生の異文化理解と交流を深めています。練習会だけではなく、多文化共生促進ワークショップを行うほか、大学内の公式行事として開催されるスポーツ・デーに参加しています。留学生が主体的に運営に関わる中で、多様な文化背景を持つ学生のコミュニティが形成され、相互理解の促進につながっています。 Inter Tsukuba 筑波大学の留学生やつくば市在住の外国人を中心に結成された多国籍の社会人サッカーチームで、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米、南米等、様々な外国籍選手で構成されています。20代から50代のメンバーが参加し、2022年度からつくば市学園都市サッカーリーグで活動を開始し、2023年度から茨城県社会人リーグにも参戦しています。選手登録や大会申請等の手続きは日本語で行う必要があり、日本人メンバーが調整役としてチームに携わっていますが、チーム運営は外国人メンバーが主体的に行っています。チーム内での異文化交流はもちろんですが、日本人チームに混じってリーグ戦を戦うことで、対戦チームの選手や大会運営スタッフが、外国人に接する機会を提供し、地域での異文化理解が進んでいます。 【38ページ】 コラム 公益財団法人茨城県サッカー協会 FAコーチ 原田 精一郎さん 「インクルーシブであるための伝える工夫」 「インクルーシブの土壌」  茨城FAでは、インクルーシブ委員会を中心として、障がいのある方がサッカーを楽しみ、さらにはサッカーを通じて生きがいや充実感をもって生活していく環境を提供するため、様々な取り組みを行っています。ほほえみリーグやチャレンジマッチといった知的障がい者サッカーの大会の開催はもとより、Jクラブと連携したフェスティバルのほか、サッカー指導者C級およびD級養成講習会では、10年以上前から、障がい者サッカーのプログラムを取り入れています。ブラインドサッカーやアンプティサッカーの体験だけではなく、講義も行います。講義では、「始点は視点を変える」と説明を受けます。障がいのある方へのサッカーの指導は、あまり接する機会がないと、緊張してしまうこともあります。しかし、見方を変えると、技術が全くない方に指導するときと同じであり、聞こえない方、目の不自由な方にどうしたら伝えられるのかを考えていくこと、個性や特性の異なる個人とのコミュニケーションの問題であるということを認識できます。そして、障がいのない子どもに対しても、どうやったら伝えられるのかを立ち止まって考える機会にもつながっています。何気ない一言でも、本当に伝わっているのかな、という大切な気づきを指導者に与えます。  障がい者に対する理解が、指導者の間でも深まってきていますし、ネットワークもできてきています。茨城FA内には、どのような方でもまずは受け入れるために考えようという土壌ができていると思います。 「外国籍の方のサッカーへのアクセス」  その土壌が、外国籍の方のサッカーへのアクセスを少しずつ後押しし始めています。2024年に、インクルーシブ委員会とJFAが共同で企画した「パンディスアビリティフットボールトライアル」は、様々な障がいのある方と健常者の方と一緒になってサッカーを体験するイベントでしたが、そのとき、ちょうど外国の方がなかなかサッカーの機会がないという声があり、それならば一緒にと、参加していただくことになりました。イベント自体は、障がいのある方が、年に1回のフェスティバルだけではなく、サッカーをより身近に感じたり、技術が上達する喜びを感じていただく機会を増やすためのトライアルとして開催されたものでしたが、そこに外国の方がいらしたことで、インクルーシブとはこういうことだ、と強く感じることができました。  また、2022年には、アルゼンチンの方に指導者養成講習会を受講していただきました。漢字が読めなかったので、講義中のスライドの漢字を丁寧に説明したり、筆記試験ではひらがなで問題をつくったりしました。難しい文章については、口頭試験として受け答えをしていただく形を取りました。どう伝えるのか、ということを考えると、ちょっとした工夫で受け入れることが可能だと気がついた出来事でした。ちょうどワールドカップでアルゼンチンが優勝した年で、フランスとの決勝戦では、アルゼンチンのディフェンスががすさまじかったと話題になりましたが、実技の際に、アルゼンチンの方が見せたボールのアプローチ、寄せ、ちょっとかわされてもググっとついていって、日本人がついていけないなということを目の当たりにし、他の受講者も世界のサッカーを実感できました。  障がいのある方も、外国の方にとっても、まだサッカーへのアクセスは非日常なものかもしれません。私自身、FAコーチとして、指導者同志で気づきを与える機会を増やし、誰にとってもサッカーを「日常」にしていく土壌を今後も育てていきたいと思います。